top of page

〜雪とサーカス〜

snow and circus

第二幕

〜町〜

 

 

それからというもの、町にたどり着けたのは5日後のことだった。

 

意外にも町にはやく着くことができ、エレーヌも私も心から安堵したものであった。

 

それは、溜め息さえつく程だ。

 

 

それまでの食料の調達といえば、

 

驚くことにあの少女、ティカが大活躍をしたのだった。

 

馬車に乗せたのはいいものの食料が無いことをそれとなくほのめかすと、

 

彼女はしばらくぼんやりとした後、馬車を止め一息ついている中、急にどこかへ行ってしまった。

 

 

 

エレーヌはひどく心配し、私の言い方が悪かったかとか散々二人共に言い合っていた最中、

 

彼女はまたふらりと馬車に戻ってきて、どこからか拾って来た木の実や食べられそうな草、きのこや松ぼっくりなど

 

様々なものをエレーヌが貸した肩かけいっぱいに持って帰ってきたのだった。

 

 

そんなこんなで5日という日々をなんとかやり過ごし、町にたどり着いたという訳であった———–。​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​

 

 

 

 

 

 

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

 

                  〜赤い髪のおさげ〜

 

 

 

あー今日はちょっと寒いかなぁ。

でも昨日に比べたらマシかな。

あたしは鼻をムズムズさせながら、冬のあのツンと静かな朝の空気を

むねいっぱいに吸い込んでやった。

んもおおお   

 

「さ む い !」

 

 

 

あたしの名前は テッサ。

街の路地裏にたむろしてるガキ達はあたしのことを「赤茶の馬」とかって呼んでるけど。

多分それはあたしの髪の色が俗に言う赤毛(って言ってもオレンジでしょ?)よりも

更に赤みが強くて、それをポニーテールにしてから三つ編みにしたのを

ゆらゆら垂らしてることに起因するんだと思う。

あたしのこのおさげは馬のしっぽってところだ。

あともう1つ付け加えるとすれば、あたしが結構筋肉質なこととかな。

 

よく「ヒィヒーーーン!」とか言ってからかってくるから、

あたしはとりあえずゲンコツ入れてやってる。

 

 

さてはて今日はまぁ冬の中でもまぁまぁ寒い日で、でもあたしは今日も今日とて

食べていくため生きていくため、クラブをくるっと宙に放り出してやった。

まぁ、つまりあたしは街頭でジャグリングして時々気まぐれで落としていったお金で

食べていってる。

 

この街はあたしが来てからほんのちょっとたつけれど、比較的、裕福。

しかも街も結構栄えているから遠くから物珍しくてやってくるお客もいて、

あたしがそんなお客の気をひいて、小金を稼ぐにはもってこいの街だった。

 

それでもやっぱり苦労は多い。

あたしを馬って呼ぶ路上裏にたむろしている子達は皆、親がいなかったり、

とにかく貧乏だったりする子が多い。

そうした子達に食べ物をねだられることも多いし、

小さな弟がいた私にとって、無視するのも難しい。

 

時にはそこらのお客の物を盗んだり、無理矢理道案内をしてお金をとったりしたり。

そういうのが時にはあたしの方にとばっちりが来たりする。

例えば、こんな感じ。

 

「おい、ちょっとそこの赤毛!」

「…えと、なんでしょうか…」

「さっき、この女性のブレスレットを盗んだろ!」

「い、いや…知らないです…本当…」

「嘘つくんじゃない!さっき、お前の芸を見ていったの知っているんだぞ!」

「いや、結構距離感ありましたし、そんなこと出来な

「じっとしてろ!確認する!」

 

まぁ、こういうことだ。

ブレスレットを盗んだのは多分、ガキ達の1人。

確かに路上で女の子に声をかけられて、そのまま大道芸を見ていってしまうような人は

どこか抜けていたり、隙がある。

 

だからあたしのお客さんとガキ達のお客さんが一緒になってしまうことは結構あって、

あたしはよく濡れ衣を着せられる訳である。

 

「…んん…?ないな…本当に違うんだな…?」

「いや、このお客さんと今以上に近寄ったこともないですよ。」

「本当か…?」

警官はちらりとボンネットの夫人を見ると、夫人も

「えぇ、ジャグリングなんて初めて見たのだけれど、

こちらにその棒のようなものが飛んできたら怖いわと思って少し距離をとっていましたし…」

 

「…ふむ」

 

まぁ、こんな感じ。

警察の人はあたしがどうしてもやっていると思っているらしくて、

そうしてどうしてもそのトリックを見破りたいみたい。

ないものは解けるはずもないんだけど。

 

人から疑われることも、人から嫌悪感を丸出しされることにも慣れている。

それでも、やっぱりジャグリングはもっと気持ちよく投げたい。

……本当はそう思ってる、けど。

 

今日は特に警察のその人は機嫌が悪く、何かあたしに悪口を言って去っていった。

…ふぅ。

 

やっぱり警察の人に絡まれてしまうと、同じ場所でジャグリングを続けるのが難しい。

お客さんがどうにも警戒心を持ってしまうし、

どうせすぐ新しいお客さんが通りにくるって思っても、

あたしが警察に絡まれているのを目撃した人が用事の帰りにあたしの陰口を言ったり、

冷たい目で見てきたりする。

そういうのは意外と周りに伝染するものだし、仕方ないからあたしは場所を変えた。

 

あーぁ、あそこ結構いいスポットなのになぁ…

くそぅ、どこのガキだ…

でも、結局何も言えないんだよねぇ。

毎日精一杯生きているのはお互い様なんだ。

 

場所を変えて、公園近くのひらけたところ、あたしは早速通りすがる人たちに声をかける。

 

「あ!ほら、そこのおじさん!見ていってよ!ほらっ!」

あたしは目一杯、3本のクラブを手の周りで回転させてから、そして宙に放った。

この時にあたしもくるっと回ると、世界が少しゆっくり見えて、結構綺麗で。

あたしの演技の内容は大抵あたしの気分に合わせて、あるいはお客さんがこんなの好きそうだなぁとか

お客さんの演技見てる時の反応で変わる。

今回のおじさまは紳士そうだし、あんまり技をいっぱい入れてドタバタするよりも、

手足を上手く使って綺麗に魅せれば…

 

 

 

「ふぅ…」

あたしの演技が終わって、見るからに身なりも整って裕福そうなそのおじさんは

小さく拍手を送ってから、小銭をあたしの逆さにした帽子に入れてくれた。

「ありがとう!」

おじさんはにっこりと微笑んでから小さく手を振って去っていった。

うーん!今のおじさん、やっぱり声をかけてよかったわ。

とっても素敵な笑顔。あたしは精一杯の笑顔とありがとうを去っていくおじさんにかけた。

さてはて…

あたしはちらりと帽子の中身を確認。

---—--お、おぉ…?これはすごい…

あたしのお気に入りのブラッドオレンジ色の帽子、確かキャスケットって言ったかな…?には

3エルクも入ってた、つまり小銭と一緒にお札も入れてくれてた!

明日は少しお休み出来るかもしれないわ…

なんてご機嫌にクラブをひょいっと腕の下から背中に向かって投げてみる。

それでおでこでキャッチ。

 

とかそんなことを上機嫌でやっていたら気づかぬうちに見物客がいたようで。

パチパチパチ!

あたしは突然上がった、今までに聞いたこともないような熱心な拍手に驚いてそちらを振り返った。

そこにいたのは、あぁこれがエメラルドグリーンかって言う程綺麗な緑の目の女の子が

こちらをじっと見ていた。主にあたしのクラブに集中しているけど。

あたしは今日は寒いし、お金を入ったことだし、またお昼になってからにでも再開しようかな、

なんて思ってたんだけど。

困ったなぁ…なんだかすごい見られてる…すごい期待のまなざし…

たぶんというか絶対これ、あたしのジャグリング待ってるんだよね…

でもこの子、汚い毛布かぶってるし、お金もないんだろうなぁ…

余計な体力は使いたくないんだけど…

 

「……?」

 

いや、そんなきょとんとされても…

 

「…………?」

その女の子の目は朝の冷たい光を吸い込んだせいか、

透き通った深い緑色があんまりにも綺麗で吸い込まれそうで、

あたしはちょっとそわそわした。

 

 

「…んもぅじゃあ!あなたにはとくべつ!」

あたしはそう言ってから、そのエメラルドグリーンの瞳の女の子にウィンクを送って、

クラブを高い高いまだ寒い冬の空に向かって、放り投げた。

 

 

 

 

 

「あ、あの…!それ!」

 

私の演技が終わると緑の目をキラキラ光らせてその子が突進してきた。う、うおお…

 

「それ、なに?」

「これ…?クラブだけど…ジャグリングっていう…」

女の子はまじまじと私のクラブを見つめている。

ジャグリングを見たのは初めてなんだろう。

 

「おぉ〜〜い!こんなところにいたのかぁ〜!さ、探したよ!」

と、少し黄色みがかった茶髪の男の人も突進してきた。

えっあたし?

 

「あ…」

 

「もう街には用事があるようだから、別にお別れを言わなくてもいいかな、

とも思ったんだけどね、迷子になってるんじゃないかってエレーヌが心配してね…」

 

その笑うと目の下にしわのできる男の人は息を切らしつつも優しく緑の目の女の子にそう言った。

女の子の知り合いみたいだけど、どんな関係なんだろうか…

 

「あ、あのね、わたし今ね、とっても素晴らしいものを見つけたのよ!」

女の子があまりにも力んで言うので、

まさかその素晴らしいものがあたしのジャグリングだってことに気づくのに数秒かかった。

 

「う、うむむ・・・?素晴らしいもの?」

男の人は女の子の瞳のグリーンとは違って、薄いうぐいす色の瞳をまんまると見開いた。

 

「そうなの、ジャグイング!」

「…あ、えと、ジャグリング…」私が訂正する。

 

「…? …あ、じゃぐりんぐ…?」

「うん、ジャグリング…」

 

女の子は覚えたての言葉を間違えつつも胸を張って言い直す。

「ジャグリングがとっても美しいの!」

 

「へぇ、君がもっているクラブ、とても綺麗だね。」

「あ、自分で作ったんですけど、ハハ、いやそんな大したものじゃないんですけど…」

 

あたしは今世紀最大ってレベルのべた褒めに照れるのを通りこして冷や汗を浮かべながら応答する。

男の人も困っちゃうよ、路上でやっている大道芸だよ…もう見飽きてるかもしれないし…

 

「ちょっと見せてもらってもいいかな…?」

 

「え、えぇ…」

 

あたしは寒空の下、どうして寒い日にかぎってこんなに人に絡まれるんだろうなんて考えながら、

だけども遠い遠い昔、大好きだったお父さんがあたしにジャグリングを見せてと

言ってくれた時のようにあまりにも優しくて、そして目尻にしわをよせてお願いをするものだから

仕方なく、振り出しに戻るのです。

 

 

 

 

あたしのクラブが空高く高くに飛んでった。

 

 

bottom of page